教育学部の紹介

学部長のご挨拶greeting

九州大学 教育学部長
橋彌 和秀

 九州大学教育学部は、1925年に設置された九州帝国大学法文学部教育学講座を前身として1949年に開設されて以来、これまで2800名余の卒業生を輩出してきました。卒業生の皆さんは、一般企業や、省庁の国家公務員、地方公務員、国連等の国際機関職員、ジャーナリストなど、国内外で活躍されています。学部専門教育に併設される教職課程を経て高等学校の教員となる方もいらっしゃいますし、九州大学人間環境学府をはじめ大学院に進学して、修士・博士の学位を取得後、国内外の大学や研究機関等の教員や研究者、あるいは臨床・実践の専門家として活躍している方も多くいらっしゃいます。

 「教育」というのは、きわめて人間的な営為です。蓄積された知識や技能、あるいはその革新的な変化を、個人から個人へ、個人から集団へ、集団から集団へと、歴史性を内包しながら経時的に繋いでゆく。そして、それらの営みが制度化されたものも「教育」です。このシステムは、ヒトという生物をヒトたらしめ、社会や文化の基盤となって未来を拓くものであり得ると同時に、(ときには「善意」のもとにあってすら)他者の同化や同調を強い、自発性や多様性を奪ってしまう、ある種の「暴力性」を孕むものでもあります。自覚的に教育に関わるということは、この両刃の剣のような教育の可能性と危険性とを胸に刻みながら、それでも、可能性を信じて「歴史」を繋ぐ覚悟を持つ、ということなのかもしれません。

 九州大学教育学部は70年以上に渡って、教育学と心理学とを両輪として、このミッションに挑んできました。集団内・集団間の相互作用を成り立たせるこころの諸様相、その発達と基盤を実証的に解明し、個人を取り巻く家庭や学校を初めとした多様な領域について学び、現代社会におけるさまざまな問題に取り組むとともに、歴史を踏まえてその構造を究明し探求する高等教育の拠点となってきました。その根幹は、第二次世界大戦の反省に立ち、民主的な社会の実現という使命のもとに、九州各県の教育体制の改革と民主的教育思想の普及に取り組んできた設立当初の思想を継承するものです。

 俯瞰的な視点と臨床・実践的な態度とを携えながら教育とこころに関わる問題を探求し学ぶことは、本来的に分野横断的な活動です。また、周辺自治体や学校、コミュニティの皆さんをはじめ、学部の研究教育活動に関わって下さる方々にご協力を賜らなければ成り立ちません。これからも、「理系/文系」というような古色蒼然とした概念に囚われることなく目の前の課題に真摯に取り組みながら、刻々と変化する国際社会や地球全体に目を向け、個人と文化の多様性と普遍性とを踏まえた学生・職員・教員の協働が、学術と実践の両面において教育・心理諸科学の発展に寄与することのできる学部でありたいと思います。そうあることが、貧困、差別、不公正、分断といった、教育やこころに直結する社会的問題を解決し、悩む誰かのほんの少しでもの助けに繋がることを信じたいと思います。