教育学部長 八尾坂 修  私たちの教育学部は、昭和24年(1949年)に新制大学が発足すると同時に九州帝国大学法文学部から分離独立して九州大学教育学部となりました。本学部は、教育学部という名称ですが、いわゆる教員養成を主たる目的とする学部ではありません。教育をめぐる教育研究をする学部です。
 私たちは、教育を人間の発達と自己実現の過程に関わる相互的な営みとして捉えています。すなわち、教育は、個人がその社会において一人の人間として成長発達し、人格をもつ人間として他者と関わりながら生活し、より人間的に自らを実現していけるような意図的な関わりの活動ということができます。したがって、その営みは、家庭・地域社会・学校・企業・官公庁など様々な場所で、そして幼児から高齢者、または日本人のみならず外国人まで様々な年代や文化に属する人たちを対象として行われます。
 教育学部は、大きく教育学と教育心理学という二つの大きな枠組みを中心にしながら、教育に係わる問題や人間の心理・行動に係わる問題について精力的に教育研究を推し進めてきています。
 教育学部の教育目的は、「人間の発達と形成を軸とする幅広い総合人間科学としての教育学・心理学に関する基礎及び専門教育を通じて、人間に対する深い洞察と共感的態度を持ちながら社会の様々な領域における教育・心理にかかわる問題に対して、創造的かつ効果的な解決策を提示しうる人材の養成」であります。
 具体的な人材像は、(1)教育研究に携わる専門研究者、(2)官公庁及び民間企業等における人材開発・能力開発に携わる専門職者、または教育・心理・福祉領域の実践的指導者及び専門職者、(3)カウンセリングや心理相談等を行う心理カウンセラーなどの心理専門職者、などであります。
 このような人材の養成のためには、現実社会における人間の教育・発達・心理に関わる諸問題の発見と解決に向けた態度と能力を向上させる、また教育学・心理学の基礎的・専門的知識と実践的スキルの習得、などが主な教育目標となります。
 ところで九州大学の諸学部のなかで際立った教育学部の特色として、学生数に対する教員の人数がもっとも恵まれているということがあげられます。一学年50名の学生に対し、教員が約30名となっておりますので、非常にきめ細かな指導が行われます。
 教育学部での教育を受けた結果、卒業生は、大学等における研究者、国家・地方公務員、教員・教育行政職員、各種の企業人などとして多様な領域で活躍しています。
 教育学部や関連する大学院(人間環境学府)における研究は、わが国のみならず諸外国においても高く評価されております。
 これらのことから私たちの教育学部は、わが国における重要拠点学部の一つとして認められています。
 社会・経済・文化などあらゆる側面において価値観や見方が多様化し、社会の制度や構造がいっそう複雑化してきている21世紀こそ、教育学部における総合人間科学としての教育研究が必要であり、かつ期待されると思われます。私たちの教育学部は、その要求や期待に応えるべく、総合人間科学としての教育研究の発展に寄与する所存です。

教育学部長  八尾坂 修

特徴

 教育学部では、人間の形成や人間の発達にかかわるあらゆる問題を学びます。教育というと子どもの問題と思われがちですが、乳幼児期や児童期の子どもの問題だけではなく、青年期や成人期、さらには老人期にいたるまでの人間の生涯にわたる発達を学びます。教育学というのは、総合的な人間形成の科学だと言えるでしょう。
 われわれ九州大学教育学部は、厚みあるスタッフによりユニークな研究ときめ細やかな少人数教育の実践を心がけています。
 九州大学教育学部は、教員養成を目的とした学部ではありませんが、所定の単位を履修すれば中学校社会科、高等学校地理・歴史科,公民科などの教員免許を取得できます。
 教育学部と関連の深い大学院人間環境学府は、人間共生システム専攻心理臨床学コースが財団法人日本臨床心理士資格認定協会による第一種指定大学院となっています。 また、実践臨床心理学専攻(専門職学位課程)を修了すると財団法人日本臨床心理士資格認定協会の臨床心理士資格試験の受験資格が得られます。

歴史
1.教育学部の設立とその使命
 九州大学教育学部は、1925(大正14)年5月に九州帝国大学法文学部に設置された文学部教育学講座をその前身としていますが、戦後の学制改革によって新制九州大学が発足するとともに法文学部から分離独立して、九州大学教育学部となりました。1949(昭和24)年5月のことです。戦争が終わり、民主主義という旗のもとで文化的な国づくりを進めていくなかで、新しい日本の学問と教育を担うべく歴史的な使命を託されて教育学部は誕生したのです。
 こうした時代の要請を受けて、教育学部は従来の原理的な教育学研究に加えて心理、社会、政策、行財政、学校教育、社会教育といった幅広い分野の教育学研究を推進していくとともに、こうした分野における研究者の育成、教育界の有能な指導者の育成、高度の専門的知識を備えた人材育成が必須の課題となりました。また教育職員免許法が制定されて教員免許状は一般教養、専門課程、教職課程の三領域の修得にもとづいて与えられるようになったため教育学部は全学に教職課程を与えることになりました。
 こうして九州大学教育学部は教育分野における指導的な役割を果たすことを期待されて設立されたのです。そして1950(昭和25)年4月には教育心理学第一講座が、1951(昭和26)年には教育史講座(1994年、教育社会史講座となる)と教育心理学第二講座がそれぞれ開設されて教育学部の研究基盤が整備されました。以後、教育学の領域では、1952(昭和27)年には比較教育学講座と教育技術学講座(1963年、教育方法学講座となる)、1953(昭和28)年には教育行財政学講座(1963年、教育行政学講座となる)、1954(昭和29)年には教育社会学講座が開設されて、教育学研究の新たな学問的構成の基盤が整備されました。そして1953(昭和28)年には大学院教育学研究科に教育学専攻と教育心理学専攻が設置されて大学院の教育・研究体制が整い、新しい時代の新しい科学としての教育学研究が期待されることになりました。


2.研究・教育の蓄積と教育学部の発展
 戦後の日本は飛躍的な経済的発展を遂げましたが、それは一方で日本社会の国際化を促しました。今日では経済生活のみならず、政治生活、社会生活、文化生活においても国際的な関係に影響されるようになりました。正に国際化時代と言えるでしょう。こうした社会的な背景から教育学研究においても国際的な比較研究が要請されるようになりました。しかし九州大学教育学部では早い時期から教育文化の比較研究に着手していました。既に比較教育学講座は1952(昭和27)年に設立されていましたが、これは日本で最初の比較教育学研究の講座です。しかし教育学部は、さらに比較教育学研究を推進していくために独立の研究機関の設置を計画しました。そして当時の福岡県知事の呼びかけで地元各界からの寄附を募るとともにロックフェラー財団から当時の額で55,800ドル(2000万円)の援助を得て共同研究を発足させ、これを機に1955(昭和30)年に附属比較教育文化研究施設を設立したのです。日本の比較教育学研究は九州大学教育学部から始まったとも言えるでしよう。
 九州大学教育学部のもう1つの特色は教育心理学の領域を重視してきたことです。1950(昭和25)年4月には教育心理学第一講座が開設されましたが、翌年には既に教育心理学第二講座が開設され、さらに1961(昭和36)年には集団力学講座、1962(昭和37)年にはカウンセリング講座、1975(昭和50)年には障害児童学講座、そして1992(平成4)年には生涯発達学講座が設置され、日本で最大規模のスタッフを擁する大学になりました。また1954(昭和29)年11月から教育心理学講座の教官によって奉仕的に続けられていた教育相談室が文部省の認可を得ることによって1981(昭和56)年に心理教育相談室となりました。さらに障害児童学講座が中心となって進めてきた障害児臨床の研究と実践を発展させるために1986(昭和61)年には附属障害児臨床センターを設立しました。そして研究と臨床実践をより一層発展強化させるために1995(平成7)年にはこの2つの施設を統合して、新しく附属発達臨床心理センターとしました(平成11年度以降は大学院人間環境学研究科の附属となります)。
 また地域社会への貢献や社会に開かれた大学・大学院であることも九州大学教育学部の大きな特色と言えるでしょう。1966(昭和41)年には社会教育学講座が開設されましたので、この社会教育学講座が中心になって毎年社会教育主事講習会などを開催し、社会教育関係指導者の育成に大きな貢献をしています。1996(平成8)年度からは大学院修士課程教育学専攻に学校改善コースと成人教育計画コースを設けて、社会人を対象とした大学院教育を行っています。
 そして1998年4月からは教育学研究科を母体にした学際的な大学院である人間環境学研究科が新設されることになりました。そのなかには、社会人を対象とした発達・社会システム専攻教育学コースの修士課程・博士後期課程も設置されています。このように九州大学教育学部は常に社会の変化に対応しつつ、新たな可能性に向けてチャレンジしています。

 九州大学教育学部は1949(昭和24)年5月に文学部教育学講座を母胎に設置された学部です。当初は敗戦後の新しい民主主義に基づく社会を構築するために教育界の指導者を養成することを目的としていました。その後の教育界の変化に伴い常に教育社会の中心で活躍できる人材を養成してきました。
1.教育理念
◆教育理念・目標、育成する人材像
 九州大学教育学部は、人間に対する深い洞察と共感的態度を基盤に持ちながら、人間と人間のふれあう社会のさまざまな領域において創造的に問題解決できる人材を養成することを目的としています。
 教育学部における教育は、人間の発達と形成を軸とする幅広い総合人間科学としての教育学・心理学に関する理論的並びに実践的な基礎教育と専門教育を通じて、具体的には以下の5つのタイプの人材像の育成を想定しています。

1. 学部・大学院(本学部・本学大学院人間環境学府等)の一貫教育を経て、国内外の高等教育機関・研究機関等で教育・研究にたずさわる専門研究者。
2. 学部さらには大学院での教育を経て、各種の教育・福祉機関等において教育・福祉の実践的活動にたずさわる専門職や指導者。
3. 官公庁及び民間企業等で実践的な人材開発や能力開発、また教育分野や心理分野での実践活動にたずさわる専門研究者。
4. 地域社会、さらには国際社会において、ボランティア活動としての教育的活動や福祉的活動にたずさわる専門家や指導者。
5. 心理カウンセラーとして心理相談や心理ケア等の専門的活動にたずさわる専門家や指導者ならびにボランティア活動家。
2.教育プログラム
◆教育課程の特色
 教育学部は人間の発達と成長を軸とした総合的な人間科学を目指し、その基本を作っているのは教育学と教育心理学です。この二つの領域を総合的に学びつつ学年進行にともない、その専門性を深めていく方法をとっています。大きく教育学系と教育心理学系にわかれ、さらに教育学系には国際教育文化コースと教育社会計画コース、教育心理学系には人間行動コースと心理臨床コースの4つのコースを置いています。
 それぞれのコースの特徴は以下の通りです。
【教育学系】
* 国際教育文化コース
 このコースは、国際化時代に対応してさまざまな分野で活躍できる幅広い知識と教養を持った人材の育成を目指しています。教育・研究の事項には欧米やアジア諸国の教育思想、教育制度教育政策や教育改革、また各国の教育についての比較研究、国際理解、異文化理解、民族問題、さらに留学生、帰国子女、外国人子女の教育等があります。例えば日本の教育問題を相対化するために外国の教育や文化と比較したり、最近話題となっている外国人や帰国子女など異文化に染まった子どもたちと日本の子どもたちとの接触で生じる問題とか、国際化という時代に対応する問題を解きほぐす道筋を模索できます。また、インターネットを駆使した教育方法の開発や教育とはいったい何であるかといった探求も欠かせない課題です。
* 教育社会計画コース
 このコースは、教育と社会にかかわるさまざまな問題を社会科学的に探求したり、歴史的な観点から考察し、これからの教育計画や社会計画の立案・実施において指導的な役割を果たすことができる人材の養成を行っています。教育・研究の事項には日本や西洋の教育の歴史、教育行政のあり方、非行や社会の問題、現代的な学校化威嚇や学校経営、生涯学習と大学=地域連携があります。例えばいじめとか不登校といった教育問題が生じたとき、その原因となる学校や家庭の教育が形成されてきた過程や現状を見直して課題を明らかにしたり、よりよい学校をつくるためのプランづくりや教育改革のための政策的な提言であるとか、より豊かな人生を生きるためのライフプランニングなどもこのコースでは考えることができます。
【教育心理系】
* 人間行動コース
 このコースでは、幅広い心理学の視点と知識に基づき、今日の社会変動で生じるさまざまな問題に対処していけるような専門家の育成をめざしています。教育・研究の事項には、子どもの知識・規範の習得過程、生涯にわたる心身の構造の変化の過程、集団の中での意識や行動のしかた、環境による認識や行動のちがいなどがあります。例えば、学級の中でのより効果的な学習方法を模索したり、人生のそれぞれのステージでの心と体の関係を解きほぐしてみたりすることもできます。また、学級、学校、会社などの組織の中での人間関係の問題がどういうふうになっているかなども興味深い課題です。
* 心理臨床コース
 このコースでは、心に悩みをもつ人たちや、身体に障害のある人たちを理解し、問題解決に導くことのできる心の専門家の育成をめざしています。教育・研究の事項は、高度産業社会におけるストレス、心理的葛藤、また家庭内暴力、不登校、非行、犯罪などの問題行動や発達障害を持つ人々への援助や対処の技法の理論的・実践的な開発です。例えば、職場や家庭などでのいろいろな悩みを抱えて困っている人の相談にのるカウンセリングの技法を開発したり、不登校のように学校で疎外された子どもたちの心のケアをする技術を学ぶことができます。また、障害を持った人たちが少しでも社会的な活動に参加できるような支援の技法の習得もできます。

◆教育指導体制
 第3学年の後期までに指導教員を選択して,その教員の研究室にはいることになります。そして指導教員の指導のもとでその専門分野の基礎的な学修をしつつ,自分の研究テーマを見つけます。そして卒業論文のための調査や実験を重ねて,卒業論文を書くことになります。
3.求める学生像(求める能力、適性等)
 教育学部は人間の発達と成長を軸とした総合的な人間科学を学ぶところです。だからまず人間に関心を持っていることが大切な条件です。そして社会科学、人文科学、自然科学のスキルがそれぞれ必要となります。そうした教育学部での学びのために、学生には次のことが期待されます。

1. 教育や人間の成長・発達について高い関心を持ち、いろいろな立場から人間について考えようという意欲があること。
2. 他者(ものの見方,考え方,価値観の異なる人,異文化で生まれ育った人)の立場に立ち、多面的な視点からものを考えられること。
3. 本を読んだり、調べごとをしたりすることが好きであること。
4. 与えられた知識や情報について、読み解く力,分析する力,解釈する力,批判する力,自分の意見をまとめる力。
4.入学者選抜の基本方針(入学要件、選抜方式、選抜基準等)
 本学部では、教育学・心理学を幅広い総合人間科学として位置づける立場から選抜をおこないます。
 個別学力検査前期日程においては、特定科目に偏らない主要科目全般の総合的な到達度を重視するものとします。したがって国語・数学・外国語を課し、センター試験の成績と併せて、基礎学力の優れた入学者を選抜します。
 AO選抜においては、主体的に目的や課題を設定し、積極的に学ぶ意欲のある学生、社会における様々な教育機能について強い興味/関心を持ち、教育実践や人材/能力開発に携わる専門職や指導者を希望する学生を求めるべく、小論文、プレセンテーション、面接により選抜します。
 また、本学部では、深い異文化理解と国際性を備えた教育・心理分野の専門家を育成するために帰国子女・外国人留学生入試を実施しています。入試では異文化及び日本文化に対する理解と入学後の勉学意欲及び教育可能性を見るために、帰国子女の場合は小論文と面接を、外国人留学生の場合は日本語試験と面接をおこなうものとします。
5.その他
 本学部の卒業生の進路の特色は約4割近くが大学院進学をすることです。また、主な就職先は地方公務員、家庭裁判所、中・高校の教員、企業ではベネッセ・コーポレーション、西日本新聞社、トヨタ自動車、日立製作所、安田生命保険、朝日広告社、福岡三越、東海銀行、三菱電機等です。
 本学部の教育課程は、全学教育から専攻教育へと幅広い知識・学問から教育学や教育心理学の特定領域へと焦点化させていくとともに、初年度の段階から教育学、教育心理学の基礎を学び、学年進行と共にその専門性を深めていくことを目指しています。
 専攻教育に進学後は、本学部の長所である少人数教育の利点を生かしながら、人間の発達と成長を軸とした総合的な人間科学を目指し、専門領域の学問の習得と共に、教育学と教育心理学の二つの領域を総合的に学びつつ、それらの融合を図っています。
 専攻科目はそれぞれの系やコースに沿って構成し、シラバス等において内容、評価基準等を明示しています。また、専攻教育段階では理論的な学習のみならず、調査研究の方法やスキルを演習、フィールドワーク、実験・実習などで、社会との連携を保ちつつ、学生が主体的かつ実践的に学べるよう配慮しています。
 教育学部は、教育と心理双方にわたる幅広い視野と基礎知識を備え、さらに理論的、実践的な専門知識を習得し、@教育学および心理学の各専門領域における実践家や専門家としての知識やスキル、すなわち現場の諸問題を分析・探究・解決するための能力を備えた人材、A教育学および心理学の各専門領域における研究者への道をめざすための基礎的な知識やスキル、すなわちディスカッション、プレゼンテーション、外国語論文の読解、学術論文の作成等に係る調査・研究を行うための基礎的な能力を備えた人材を養成しています。
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